施策を無力化するマネジャー

研修を企画するときの部屋

先日、ある会社(A社)で360度サーベイが行われました。(→ 360度サーベイに関連したブログ記事

この会社では、サーベイの結果をマネジャー本人に返すだけでなく、結果レポートをヒントにマネジャー自らが考えた行動改善プランを部下に対して会議の場で発表・宣言し、部下からフィードバックやコメントをもらい、プランを実践するという仕組みを取られています。

この仕組み自体への私の感想としては、きちんと取り組めば、

  • サーベイに協力してくれた部下へ感謝の姿勢を示すことになる(これにより、今後行うサーベイが形骸化しなくなる)
  • 行動改善プランをオープンにすることで、マネジャー本人のプラン実践への動機づけが高まる(結果として、自身のマネジメント能力の向上につながる)
  • マネジャーが実践しつづけることで、部下との信頼関係が強化される(その結果、職場の雰囲気が良くなり、パフォーマンスが良くなる)

といったベネフィットが先々に期待でき、とてもいい取組みだなと思いました。

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ただし、上記したベネフィットを享受するためには、以下のような前提がないと難しいと感じます。

前提:
マネジャーと部下の間に一定程度の信頼関係がおり、360度サーベイに部下が真面目に本音の回答していること

なぜなら、

部下との間に信頼関係がない
→ サーベイへの回答に遠慮や過剰な忖度が発生する
→ そうすると、サーベイ結果自体が当てにならないものになる
→ その結果として、行動改善プランも的外れなものにある
→ プランを聞かされる部下は「そうじゃなんだけどなぁ・・・」と思いつつ、突っ込まない
→ 結局無意味な取組となる可能性が大きい

と考えるからです。

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部下との間に信頼関係のないマネジャーって、これまでの経験上、概ねこんな感じかと。

  • ノンマネジメント系マネジャー:無責任、無関心、放任
  • ひらめ系マネジャー:保身、上ばかりを見ている、ゴマすり
  • オラオラ系マネジャー:傲慢、モラハラ、パワハラ

こんなマネジャーは大いに問題です(このブログの読者には、こんな人はいないと思いますけど)。

話を戻しますと、もしA社にこんなマネジャーがいた場合、件の取組みが機能するように思えません。別の施策が必要です。

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一方で、部下との間に信頼関係のある 優しい系/人がいい系マネジャー であれば、全く心配なく取組が機能するかというとそうでもないと思われます。

こんな出来事がありました。

A社には、優しい系のマネジャー(Tさん)がいました。

Tさんの課内会議で、Tさんは部下(複数名)に対して、自ら考えた行動改善プランを話しました(私は会議にオブザーブ参加してました)。

プランを聞いたある部下は開口一番、

Tさん、可哀そうですね

とコメント。続いて、他の部下から、

Tさんは毎日毎日忙しく働いているのに、人事部はこんなことまでやらせるんですね。ひどいですね!

とコメント。

Tさんのプランへのコメントやフィードバックはまるでなく、Tさんをかばう言葉ばかり。それに対して、Tさんは苦笑いしながら一言、

まあね・・・・

と述べて、このやりとりは終了しました。

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私はこのときの会議をずっとオブザーブしていて、Tさんと部下の皆さんの関係性を観察していましたが、全く悪いものではありませんでした。

じゃあ、別に問題ないのでは?

本当にそうでしょうか。

私は、部下の皆さんが発したコメントや、Tマネジャーが「まあね」しか言わなかったことに違和感を覚えました。なぜなら・・・

  • 部下からのコメントに対して、Tさんは今回の取組の意味や、自分や組織にとっての意義や価値をどうして伝えようとしなかったのか
  • 行動改善プランの中身は、至って当たり前のマネジメント行動であって、Tさんにとって余計な負荷のかかる行動ではないことを部下になぜ説明しなかったのか

さらに言えば、

  • 行動改善プランの中身は、至って当たり前のマネジメント行動であって、Tさんが無理をして行わればならない余計な行動ではないのに、Tさんはそのように思っているのではないか

という疑問を抱いたからです。

邪推かもしれませんが、Tさん自身に「人事部はなんでこんなことまでやらせるんだろうか」という情念があったから、部下からの ”同情” がグサリと刺さり、「まあね」と吐露したのではないでしょうか。

もしそうだとしたら、なんでもかんでもマネジャーに負わせる風潮は確実にあるので、Tさんに共感しないわけではありませんけど・・・。

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ずいぶん昔ですが、雪○事件のときに当時の社長がマスコミに対して「俺だって寝てないんだよ!」と言って、世間から大きな批判を浴びました。私はあの一言を「みんな、少しは同情してくれよ!」と言っているのかなと感じました。

Tさんの「まあね」はそれと似ているように感じました。つまり、「大変なんだよ」と直接的には言わないが、それっぽい表情をして、部下の同情を誘っているように見えたので。

辛辣な言い方かもしれませんが、行動改善プランを実行するという、ちゃんと取り組めばマネジャー自身や職場にとってプラスになるかもしれないことを無意味なものにしかねない状況をTさん自らがつくっているのであれば、上記した「部下との間に信頼関係のないマネジャー」とTさんは結局は同じことをやっているのだと思いました。

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会社がやろうとしていることが理不尽なことであれば話は別ですが、A社の取組はそうとは思えません。

部下から信頼されていそうな、人の好さげなマネジャーであっても、自分や職場を今より良い状態にするためのせっかくの取組を骨抜きにしたり、無意味化したりする人。どうなんでしょうね。