”研修のための研修” には価値がありません。かみ砕いていうと、会社が行う研修で、経営課題の解決につながらない研修には意味がありません。
しかし、現実はそうでないケースが多いのではないかと思います。
今行っている研修の一つひとつについて自問してみてください。その研修は何のために行っているか、それがどのように経営課題に結びついているかを論理的に説明できるでしょうか。
■ 新任管理職研修ってなぜ必要なのですか? それが経営にどう繋がるのでしょうか?
■ 1on1研修ってなぜ必要なのですか? それが経営にどう繋がるのでしょうか?
■ キャリア支援研修ってなぜ必要なのですか? それが経営にどう繋がるのでしょうか?
論理的に説明できない研修は止めることや内容の見直しを検討してみる価値があると思います。
では、なぜこんな事態が起こるのでしょうか。
そこには、研修を提供している側(以下、略して研修会社と記載します)と、研修を導入する側(以下、導入企業と記載します)の両方に原因があると見ています。
今日はこの点を述べていきます。
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研修会社側にある原因
研修会社の中には、営業担当と講師が分業している会社もあれば、営業担当兼講師というポリシーの会社もあります。
いずれにしましても、顧客との接点業務を担っている人が ”研修屋さん” だと、経営課題に無関係な研修を提供しがちな傾向があると(私がここまで接したことのある方々を見て)思います。
”研修屋さん” とは、研修を実施すること自体を目的と捉えているかのような人のことを言っています。
”研修屋さん” は、研修をやりさえすれば ALL OK かのような思考をもっていますので、顧客に対して「ニーズヒアリング」なるものを行う場合、研修に関連することばかり質問します。
■ 実施時期は?
■ 対象人数は?
■ リアルかオンラインか
といった、研修のスペックを聞き、
■ 受講者の皆さんは、これまでにどんな研修を受けてきましたか?
■ 今回の研修で、受講者がどんな姿になれば理想ですか?
といった、受講者に関することを質問します。
結果として、その研修会社が得意とする「〇〇研修」を提案してきます。提案内容を説明するとき、いかに経営課題の解決につながっているかという観点の話は皆目なく、研修の進め方(「ここではロールプレイをします」とか、「ここで講師から~の説明をします」など)を丁寧に紹介します。
反対に、”研修屋さん” からは、以下のような質問はあまり出てきません。
● 何のために行うのか。会社や組織のやろうとしていること(経営課題)とどう繋がるのか
● 目標を達成するために、研修以外の施策(制度、仕組み、ITシステムなど)として何があるのか
● 目標を達成するために、誰がどのようなパフォーマンスを発揮する必要があるのか
● 現状のパフォーマンスはどのようなものか。期待より低いパフォーマンスの場合、原因は?
このような質問をすることで、導入企業の担当者と、研修以外のことを含めた広範な話し合いをすることになります。すると、導入企業の担当者は、
* 企画しようと思っていたことは経営課題と繋がっていない
* 研修以外に考慮すべき点がある
* 研修対象者は、当初考えていた人たちではない
* 上長を巻き込まないと、狙っている効果は得られない
といった点に気づくことになったりします。
導入企業側と広範な話し合いをすることで、商談自体が(再検討により)先延ばしになったり、研修会社にとって得意分野ではないテーマにすり替わったりして提案機会を失うことだってありますので、研修会社にとってはいいことばかりではありません。
いま、人的資本経営ということが注目されています。今さら感もありますが、これまでに経営に紐づいた人的資本の価値を高められなかった責任の一端は ”研修屋さん” 的な活動にもあると思います。
自戒を込めて、注意していきたいところです。
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導入企業側にある原因
企業が正社員を職種別に採用し始めたのは比較的最近のことのように思います。これまで、大手企業は総合職として採用した人材を、ローテーションを通して育成しています。
研修などの人材育成施策を企画する部門や業務に携わるのもローテーションに影響を受けますので、配属されても数年間の関わりになることが多いでしょう。これでは人材育成のプロは育ちにくいですね。
ましてや、
● 育成 = 人事部門の仕事
● 育成機会 = 研修
といった考えをもった組織では尚更です。これでは、社内に ”研修屋さん” しか育ちません。
結果として、社内の ”研修屋さん” は外部の ”研修屋さん” とウマが合いますので、「やることが目的の研修」が量産されます。
余談ですが、研修部という名称自体、ナンセンスだと思います。いかにも研修をやることが部門のミッションかのように映りますので。
上述しましたが、人的資本経営の実践を謳うのであれば、
〇 育成 = マネジメントの役割(人事部門はその支援)
〇 育成機会 = 日常の業務経験、アサインメント、研修
といった状態へ変革する必要があります。そのためには、社内に人材育成のプロを育てるか、外から専門家を採用するか、信頼できる(研修屋さんでない)外部パートナーを見つけるかをしないといけませんね。
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今日は、研修をやることを目的としている ”研修屋さん” の話でした。
研修会社の人、導入企業の人、どちらにせよ、研修屋さんから脱却したい場合、以下の書籍が参考になります。(中古本しかないようです)