近年、ビジネス界で聞かれる言葉のひとつに「パーパス(purpose)」が挙げられます。「日本の人事部」さんのサイトによれば、「パーパス」とは
存在意義
のこと。(→ 日本の人事部さんのサイトへ)
これまでにも「理念」や「ミッション」という類似する言葉が存在しており、それらも ”存在意義” を意味していると説明する会社もあれば、ちょっと違うと説明している会社もあり、どうやら統一した見解がないように私には見えています。
区別したところで、日常のマネジメントには差が出ないと思います(私見)
とりあえず、「パーパス」も「理念」も「ミッション」も ”存在意義” を意味しているとしましょう。つまり、それらを、我々はなぜここに存在しているのか、どんな価値を誰に対して提供して(役立って)いるのかを示したものとしましょう。
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では、なぜ「パーパス」が近年のビジネス界で取り沙汰されているのでしょうか。
私は、多くの日本企業が
ドン詰まっているから
だと思っていました。
ここ30年位、社会を大きく変えるようなイノベーティブな製品やサービスが日本から出ていないし、生産性や所得の伸びがドン詰まり状態で国際的にも地位が低下してきているので、精神論にも近いような論調として、「パーパス(や理念)が重要だ」と言っているのだと思っていました。
ところが、このパーパス(経営)を持ち出したのは日本人ではないようです。2018年にラリー・フィンク氏というアメリカの大手投資運用会社の人(CEO)のようです。「株主至上主義」から「人や社会を重視する経営」への転換を提唱したことがきっかけで米国で広まり、日本に入ってきたようです。
いまでは ”パーパス本” 乱立の時代・・・。
グローバル(特に先進国)でESGを重視する経営が注目される中、”儲け” 以外の要素に目が向くようになってきている風潮は確かに感じます。しかし、日本ではもともと短期的な ”儲け” を重視するような思考や、「株主至上主義」はさほど強くなかった気がします。
かといって、これまでの経営が「パーパス」をどれだけ大切にしてきたかというと、その点は大いに疑問が残ります。
昔は「パーパス」という言葉はなく、多くの会社が存在意義を「理念」として掲げていましたが、殆ど会社で、「理念」は
額縁に入れられ、
会社の壁に飾ってあるが、
誰も気にしていない、
えらい人の言った、
高尚な文言
といった扱いだったのではないでしょうか。
最近では、
自社の社員はほとんど見ないホームページ上で、
「会社情報」という項目の中で、
ツラツラと語られている、
誰が言ったかも気にならない、
高尚な文言
ではないでしょうか。
つまり、多くの従業員にとって「理念」は
あってもなくても関係のないもの
状態です。
それを近年、日本でも経営に活かしましょう!と(たぶん、コンサル会社を中心に)言っています。それは本当に意味のあることなのでしょうか。何か良いことがあるのでしょうか。
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結論、
ちゃんとすれば、良いことはあります。
以下の3点に分けて、良いことを述べます。
1.優秀な人材の採用
2.多様性を活かしたマネジメント
3.従業員のモチベーション向上
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1.優秀な人材の採用
上記しました、最近の「人や社会を重視する経営」の風潮は、特に今どきの若者を中心にあるのではないでしょうか。会社選びの際に、会社の掲げる理念やビジョンに共感できるかどうかが重要としている調査データがあります。(→ PR TIMESさんの記事)
入社して以降も、若者たちにとって「理念やビジョンへの共感」がどの程度重要なのかはわかりませんが、まずは良い人材を獲得するためにも、会社の中に理念(パーパス)やビジョンを大切にしていることを生々しく語れることは重要です。
採用活動の主管が人事部門でなく、現場レベルに委任されるかもしれない、ジョブ型人材マネジメントの世界では、現場のマネジャーが自社や自部門の理念(パーパス)などを自分の言葉で語れないと良い人材を魅了・獲得できません。(実際にそういうことが国内で既に起こっています)
更に言えば、入社したあとで「騙されたぁ・・・」と言われたり、それをSNSで拡散されてたりして悪い評判が立たないようにするためにも、「うちの会社は理念(パーパス)やビジョンを意識した仕事をしています」と堂々と言い切れる状態をつくったほうがいいですね。
なお、若者に限らず、転職者という括りでの調査データ(by パーソル総研)でも、優秀な人材が転職先を選ぶ理由のひとつに「理念やビジョンへの共感」が入っています。(→ パーソル総研の記事へ)
2.多様性を活かしたマネジメント
この点は、以前にこのブログでも書きましたが(→ 該当する記事へ)、
簡単に言いますと、今どきの重要な経営課題である ”キャリア自律” と ”多様性(ダイバーシティ)重視” は、組織にとっては遠心力のような機能を果たすもので、放っていては組織は解体・分裂状態になります。そこまでいかなくても、チームとしての力が発揮しづらくなります。
その遠心力に対抗するためには求心力が必要です。組織を束ねる力で、マネジメントの軸と言ってもいいかと思います。その軸の一つが「パーパス」です。
多様な人材がなぜここに集っているのか、協力や役割分担をして何を成し遂げようとしているのか、この答えを「パーパス」は持っています。
マネジャーとしては、多様な人材をマネジメントする際の譲れない軸として/組織運営上の判断軸として「パーパス(理念)」を活用できることが大切です。
3.従業員のモチベーション向上
人は何のために働くのかと聞けば、確かに「生活のため」と答える人もいます。一方で、多くの人が「誰かの役に立ちたいから」「何かの役に立ちたいから」という考えをもっているのではないでしょうか。
自分たちの提供する物・サービスを通じて、受益者に喜んでほしいとか、楽しんでほしいとか、安心してほしいとか、苦痛や痛みを緩和してほしいとかといった思いで仕事をし、結果として「ありがとう」と言われることで仕事に誇りややりがいを感じる・・・・・こんなものではないでしょうか。
BtoBビジネスの場合や、営業担当や店舗スタッフのような顧客接点業務でない部門・職種の人たちにとっては、この「ありがとう」をなかなか感じられないかもしれません。
しかし、全ての会社・部門・職種に顧客が存在します。
毎日当たり前のように行っている仕事の中に前工程があり、前工程からのナイスなパスで自分たちの仕事ができます。そして、自分たちのナイスなパスで後工程の人たちは気持ちよく仕事できます。そして最終的に、顧客に良い物・サービスが届けることができ、喜んでいただけるのです。
すべての個人・すべての部門に「パーパス(存在意義)」があり、それぞれが自らの「パーパス」を果たすことで会社の「パーパス」が達成され、顧客に役立てる・・・・・このことを日常でちゃんと意識することは、自分の仕事の意味や価値を感じることにつながり、モチベーションに良い影響を与えます。
非金銭的なモチベータとして、「パーパス」を組織マネジメントに活かさない手はありません。
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今日は近年話題の「パーパス」に関するお話でした。
もともと「株主至上主義」でもないし、短期的な儲けばかり考えている経営ではなかった日本でも、ミドルマネジャーとして「パーパス」や「理念」を活かせると良いことがありますよ。
まずは、自社の理念、ミッション、パーパスを見直してみては。そして、自分の部門がそれにどう関係しているのかを考えてみましょう!