人材開発・組織開発コンサルティング(読書感想)

研修を企画するときの部屋

仕事でお付き合いいただいています、立教大学の中原淳先生の新著『人材開発・組織開発コンサルティング』(ダイヤモンド社)を読みました。

400ページを超える本ですが、内容や構成、言葉遣い(語り口)、レイアウト、イラストなどがとても素晴らしいので、あっという間に読めてしまいました。

人材開発・組織開発に関わる人にとって役立つ書籍は色々とありますが、この本は必携です。特に、私のような、人材開発・組織開発領域における ”外部コンサルタント” は、この本の内容を実践してこそ、クライアントから持続的に対価をもらえると思います。

それより思ったのが、事業会社の中で人材開発・組織開発を仕事にしている ”内部コンサルタント” の人たちが、この本を職場の皆で読み、組織知にしていかれるといいのになぁということです。

人的資本経営が叫ばれている今、「自分はジョブローテーションで、たまたま人材開発・組織開発に携わっているだけ」という自覚の人にも、人・組織のプロフェッショナルとして価値を発揮してもらわないと、ステークホルダーにそっぽを向かれ、競合他社に後れをとってしまうかもしれません。

職場内読書会をお勧めします。(なお、公開のオンライン読書会もあるみたいです)

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以下に、私がこの本について、個人的に好きな点を述べていきます。以下の3点です。

1.定義を分かりやすく明示し、しかも繰り返し述べていること
2.”目的” への意識づけがとても強いこと
3.
中長期の視野がベースであること

順に述べていきます。

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1.定義を分かりやすく明示し、しかも繰り返し述べていること

個人的な志向なのでしょうが、私は「定義好き」ですその理由は、何のことを言っているのか/言っていないのかの境界線(バウンダリー)が明確になるからです。

この本のタイトルである「人材開発・組織開発コンサルティング」はどう定義されているのかと言いますと、

人材開発・組織開発の科学知・臨床知を学び続ける人々が、その専門性を発揮しつつ、クライアントの戦略実現のために、クライアントに寄り添いながら、クライアントが自ら抱える人材課題・組織課題の課題解決を行えるように、支援していくこと

とあります。(24ページより)

*科学と臨床の両方が大事している
*学び続けている
*クライアントの戦略実現につながっている
*クライアントを課題解決の主体としている

これらのどれかひとつでも欠けると、それは「人材開発・組織開発コンサルティング」ではないということ。なんて素敵な定義なんでしょうか!!!

この定義は、本の中で繰り返し述べられているのですが、私はこの定義が腑に落ちているからか、全ての文章が理解しやすく、つながりをもって頭の中に収納できたという印象です。

「定義」を裏返せば・・・

*科学に偏重している/臨床に偏重している
*学んでいない/一時しか学ばない
*クライアントの戦略との紐づけがない
*クライアントが客体/受け身になっている

となります。そんな仕事ぶりは「人材開発・組織開発コンサルティング」ではないのであ~る!(と私は理解しています)

特に、”学んでいない”という点については、441ページに「自分が学んでいないのに、他者に対して「学べ」ということはできません」とも書かれています。

まさにその通りだと思います。学びは、大学院や書籍からしか得られないわけではありません。現場(経験)からでも学べます。

ここで注意したいのは、「現場経験は毎日積んでいても、学びや成長になっていない」というケースがとても多いことです。そんな人は、この本の94~101ページに書かれている ”経験学習” を学んで、まさに経験学習してほしいと思います。

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2.”目的” への意識づけがとても強いこと

私は普段から、仕事に関して人とやりとりをしているときに「これって、目的と手段のどちらの話をしているのか」と考える癖があります。そして思うのは、大抵の話し合いは手段の話だということです。

手段の話をすることが悪いのではありません。目的を常に念頭に置いたうえで話し合いをすべきだということです。

この本の中(78ページ)に、

人材開発が「組織の戦略実現や目標達成のために」行われる「合目的的(目的を持った)」な活動である」

人材開発とは、単なる「学習」、単なる「学び」を促すことではありません。人材開発にとって、学習や学びはあくまでも「手段」であって、それ自体が「目的」ではありません。人材開発の本懐は「組織の戦略・目標を実現・達成する」ことです。

と書かれています。この点は、この本の中で繰り返し出てきます。

私の経験上、繰り返し表現しないといけないくらい、そうでないケースが多いのです。つまり、学び自体が目的になっているかのようなケースが山のようにあるという現実・・・・・。

396ページに

とにもかくにも「目的」を打ち込んで、打ち込んで、打ち込む

とあります。中原先生の思いが込められてそうな表現です。”打ち込む” んです。

関係者に ”打ち込む” 前に、自分に ”打ち込む” ことです。

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3.中長期の視野がベースであること

コンサルタントとして、クライエントから信頼を得るために

1.中長期の視野でビジネスを見つめ、
2.個別最適に陥らない俯瞰的視点で、
3.数字だけに還元されない組織のメリットなどを指摘してあげる

と書かれています(182ページ)。343ページには、

現場で問題に直面している人は、どうしても目線が下を向きがちで、自分の職場のこと、かつ短期的な利益を考えがち

と書かれています。

上述しましたが、人材開発は「組織の戦略実現や目標達成のために」行われる「合目的的(目的を持った)」な活動」です。”戦略” は大抵の場合、中長期的な概念です。

ボトムアップ的な人材開発・組織開発施策を全否定はしませんが、大抵の場合で「いま困っていることに対する穴埋め策」にしかなりません。そして、それは戦略と関係のないことが殆どです。

現場で「いま何に困っていますか?」と聞けば、「特にありません」という答えか、組織の戦略に関係のない、本当に目先の困りごとが出ている可能性大です。

この本の中(217ページ)で、クライアントからのヒアリングに関すること(組織の「過去-現在-未来」を聞き出す)が書かれていますが、ヒアリングの際には、会社や組織の掲げている戦略を起点にして聞いていかないと、大して意味のない「過去-現在-未来」を聞き出すことになってしまいます。

中長期的な観点、具体的に言えば、組織の掲げる戦略を起点に思考していきましょう。

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今日は、新書『人材開発・組織開発コンサルティング』を読んでの感想を述べました。

最後に書かれていた「ブックガイド」ですが、まだ半分くらいは読んでいません。私には、まだまだ科学知が不足していません。ということは、私には伸びしろが大きいということ。自分の将来がますます楽しみになりました!