人材開発や組織開発に関わる人のみならず、人事に関わる人たちにお勧めしたい本です。
田中聡・中原淳・『日本の人事部』編集部 著 『シン・人事の大研究』 ダイヤモンド社 2024年
本の中に書かれていますが、人事部門内で勉強会や読書会を行う際にもってこいの本だと思います。
今回のブログでは、この本を読んでの感想を3点述べます。
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1.人事の機能間連携
昨年にコンサル会社から事業会社に転職をして、モヤモヤと考えていたことがズバッと書かれていました。
これからの人事は、採用担当や教育研修担当などの役割にとどまるのではなく、経営課題に対する幅広い視野を持ち、それぞれの機能や施策を組み合わせ、相互に連携しながら、一つのチームとなって難易度の高い課題解決に取り組んでいかねばなりません。(022ページ)
人事の諸機能が有機的に関わり合い、一つのチームとなって経営課題にタックルできる「人事部自身の組織づくり」に本気で取り組む必要があります。(067ページ)
本当にそう思います。
裏返せば、これまでの人事部門はそれができていなかったとも言えると思います。採用担当は採用のことしか頭にない、教育研修担当は研修のことしか頭にない、他の人事機能も然り・・・。
つまり、自社の経営課題を意識することなく、
*採用部門は、とにかくハイスペックな人材(≒高学歴・好印象な人材)の獲得を目指す
*教育部門は、話題になっている研修の実施する(例:1on1ミーティング、コーチングなど)
といった状況は、多くの会社に存在しているのではないでしょうか。
本の中では、このようなことが起こる背景に「思考の壁」と「部門の壁」という2つ問題があると言っています。そのうちの一つである「部門の壁」とは、同じ人事部門でありながら、採用、教育、労務など、それぞれの専門分野が独立し、相互不可侵的な関係になっている状況(025ページ)を言っています。
私見ですが、相互不可侵という状態が互いの”関係性”から来るものだけかというとそうでもない気がしています。
採用、教育、労務といった人事内の各部門(各機能)などが、経営課題を効果的に解決するうえで、相互にどのような関係を有していると良いのかをイメージできている人がいない(少ない)ということも理由に挙げられるのではないでしょうか。
056ページに「人事の具体的機能」として、4カテゴリー(a.人材獲得と配置 b.人材開発と評価 c.従業員の健康とウェルビーイングの促進 d.組織マネジメント)が挙げられています。
これらのカテゴリーを束ねる上位概念は人材戦略だと思います。そして、今話題の「人的資本経営」の1丁目1番地とも言われる「経営戦略と人材戦略の連動」という点を踏まえますと、
1.経営戦略を理解・意識していること
2.経営戦略と人材戦略のつながりを理解できていること
3.人材戦略を遂行するために、上記4カテゴリーでどのような施策があるのかを知っていること
が、今後の全人事パーソン(特にマネジャー以上)にとっての基本リテラシーと言えそうです。このリテラシーが整えば、人事の諸機能の有機的な関わり合いが創発されてくると思います。
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2.実践しない人事パーソン
人事部門は、自部門のことを「枠の外」に位置づけがちです。現場部門の学びやキャリア支援を率先して考える一方で、人事部内や人事パーソン自身の学びやキャリアについては「後回し」にしてしまっているケースが多いのではないでしょうか。(031ページ)
あるある、ですね。
本の中にも「現場(ライン)では1on1を実施しているのに、人事部門だけはそれを実施していません」とありますが、そんな会社、結構ありそうな気がします。
コンサル会社にいる頃から、この点は感じていました。
自分たち(人事)が「良い」とか「必要」とか思っているものを現場に勧めておきながら、「自分たちはやらない」ってどういうことなんでしょうね。
更には、導入した施策(1on1ミーティングやキャリア面談など)が定着しているかどうかを、施策を導入してから数ケ月後にアンケートなどで検証する会社もありますが、自分たち(人事部門)が実践していないことを検証したり、「現場にはまだ施策が定着していないので、更なる啓蒙が必要だ」などと結論づけたりするってどうなんでしょうね。
有言実行とか率先垂範とかいった要素は、人事部門が現場から信頼されるためにはとても重要なことだと思いますし、何より自分たちが実践してみることで施策の検証(効果や修正ポイントの洗い出し)ができると思うんですけどね。
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3.ハイパフォーマー人事??
全体の32.6%がハイパフォーマー人事に当たることがわかりました。(136ページ)
他者からの高い評価(縦軸)と、本人の成長実感(横軸)でデータを分析・整理した結果、このような結果になったようです。(ハイパフォーマー人事=他者からの高評価+本人の高い成長実感)
私は「ハイパフォーマー人事」という言葉に少し違和感を持ちました。 ※本の中では便宜上、そのように表現されているのかもしれませんが。
経営と人事が連動していないと言われている、これまでの人事部門の中に「ハイパフォーマー人事」と呼んでいい存在なんているのかと・・・。さらに言えば、多くの国内企業が”失われている30年間”を経験している中で、「ハイパフォーマー」を名乗れる人事パーソンって存在するのかと・・・。
例えば、構造改革や人員整理に関与し、赤字幅を減らした人事パーソンはハイパフォーマー?
もちろん、自社の評価制度を運用する中での「ハイパフォーマー(高評価者)」はいると思います。例えば、
*Aさんは、人事制度の全面改定に尽力し、期内に施行までこぎつけた
*Bさんは、新しく企画した大規模イベントが社員に大盛況だった
などといった点を高く評価するケースはあると思いますので。
ですが、それが経営課題の紐づいていたかどうかは怪しいですし、施策の効果(ターゲット社員の態度・行動の変容、ひいては財務数値へのインパクト)があったかどうかは、大抵の場合、数か月~数年後に分かるようなものが多いと思います。(効果を捉えづらいものもあります)
こういった点から、私には「ハイパフォーマー人事」という呼称がどうもピンときません。
本の003ページに、
関連する先行研究を調べてみても、「人事部」という組織の機能や役割に関するものはたくさんありますが、「人事パーソン」という個人の学びやキャリアの実態を体系的に論じた研究はありませんでした
とあります。だからこそ、この本の「人事パーソンの学びとキャリアの実態を解き明かす」という執筆目的に価値を感じます。
繰り返しますが、これまでの時代背景や人事の果たしてきた役割などから、私は「ハイパフォーマー人事」という言葉に違和感を持っていますが、これからの時代において「ハイパフォーマー人事」と呼ばれる人は、上記1番目の感想に関連しますが、
「経営課題を踏まえて、人事の機能間連携を意識した行動のできる人」
なのではないかと思います。
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本の中(159~163ページ)に、人事の専門性を学ぶためのブックガイドとして、多くの書籍が紹介されています。まだまだ読まなきゃいけない本、面白そうな本がたくさんありますので、さっそく買って読んでみたいと思います。