人事領域でもデータを活用するためにサーベイやアンケートが頻繁に行われていますね。皆さんの会社でも、エンゲージメントサーベイや360度サーベイなどを実施されていると思います。
サーベイの種類にもよりますが、結果をどのように扱っているかは各社それぞれのように思います。皆さんの会社では、以下のどれに該当しますか?
① サーベイ結果を回答者にフィードバックしていない
② サーベイ結果は組織責任者(管理職)のみにフィードバックしている
③ サーベイ結果は全ての回答者にフィードバックしている
上記①はやるだけ無駄ですね。②もさほど効果がないと思います。③が理想です。
サーベイ結果は全ての回答者にフィードバックし、経営層や組織責任者(管理職)だけで施策を考えるのではなく、関係者全員で話し合って、今後どうしていくかを皆で決めることで、ようやくサーベイの価値が出てくるものだと思います。
※そのあたりに関しては、中原淳 著『サーベイ・フィードバック入門』PHPビジネス新書(2020年)に詳しく書かれています。
が、結果のフィードバックのやり方を考える前に「ちょっと待って!」と言いたい点が2つあります。それは、
① 回答者がサーベイの設問を本当に理解しているのかどうか
②「組織にとって良いこと=従業員の嫌がること」の場合もあるのでは?
という点です。今日はこの2点について私見を述べます。
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① 回答者がサーベイの設問を本当に理解しているのか
サーベイ自体を外部のコンサル会社からの”吊るし(=標準版)”を利用しているのか、”オーダーメイドもの(自社版)”を利用しているのかがあると思います。
いずれのケースにせよ、回答者である従業員の皆さんが設問を正しく理解して回答できるどうかを考えるべきではないかと思います。特に「概念的な言葉」は取扱い注意です。具体的に言うと「ビジョン」「ミッション」と言う言葉が該当します。
サーベイの設問で、
■当社の経営方針、ビジョンに共感している
と言ったものがあると思います。では、
管理職の皆さんは「ビジョン」と「ミッション」というものを正しく理解しているでしょうか
多くの企業において、私は「NO」だと思います。そう考える理由は、私はこれまで多くの企業の管理職の皆さんに研修の場を中心に話を伺ってきましたが、ビジョンとミッションの持つ意味と、その違いをちゃんと説明できる人はほぼいなかったからです。
当然ながら、ビジョンをビジョンとして、ミッションをミッションとして正しく理解し、それらを配下のメンバーに示している管理職の方はごく一部しかいないと思います。
以下のケースが多い印象です。
▲ ビジョンとミッションが似ている(区別できていない)
▲ ビジョンが意気込みや掛け声になっている 例:_____に取り組もう!
▲ ビジョンが財務数値のみで表現されている 例:売上__億円達成!
▲ ミッションが事業戦略と連動していない
私の経験では、サーベイが5段階評価(1~2点はネガティブな回答、3点は中立、4~5点はポジティブな回答)の場合、ビジョンやミッションに関する設問(例:私は自組織の掲げるビジョンに共感している など)への回答の平均点は「3点台(半ば)」、つまり”やや肯定的な回答”だと思います。
本当にそうなんでしょうか。リアルは「2点前後」が妥当なのではと思います。
管理職の皆さんがメンバーに示しているビジョンやミッションが、そもそもビジョンやミッションになっていないとしたら、そのサーベイの回答結果をまともに受け取る価値は無さそうです。
残念ながら、多くの会社の管理職の皆さんはビジョンやミッションとはどのようなものかを学ぶ機会(や学び直す機会)はないと思います。ですので、従業員の皆さんは、価値のない設問への回答を(多忙な中で)これからも定期的に聞かれ続けることになります。
ビジョンやミッションは、遠心力が強く働いているビジネス環境下で、組織を束ねる軸としてかなり重要な要素です。(→ 遠心力に関するブログ記事へ)
本当にビジョンやミッションを組織内に理解・浸透させたいのであれば、まずは管理職の皆さんがビジョンやミッションをあまり理解していないという現実を何とかしないといけません。、
ビジョンやミッションと言う言葉に限らず、サーベイを企画している側(経営企画や人事)が、サーベイの設問に対して、もっとシビアな目を持ち、もし設問自体を変えられないのであれば、回答者の理解不足を補完するための施策を打たないといけません。
②「組織にとって良いこと=従業員の嫌がること」の場合もあるのでは?
以下の話は、管理職の皆さんを対象にした360度サーベイ(多面観察、多面評価などとも呼ぶことアリ)に関することです。(→ 360度サーベイに関するブログ記事へ)
360度サーベイは、管理職の皆さんの言動を上司・同僚・部下の方々に評価してもらい、管理職の皆さんにフィードバックし、マネジメント能力の向上、ひいては組織パフォーマンスの向上につなげるための手段として活用されるものですね。
360度サーベイも5段階評価(1~2点はネガティブな回答、3点は中立、4~5点はポジティブな回答)が多いと思います。そして、周囲からの評価(得点)が低い設問に関しては要改善ポイントとして、管理職本人に「今後どうするか」を考えさせるような働きかけをやっている会社があると思います。
その際に注意したいのが、低得点だった設問に着目するだけになりがちということです。なぜ注意が必要かというと、それは「従業員にとって都合の良いこと=組織にとって都合の良いこと」ばかりではないからです。
例えば、以下のような設問内容は、多くの従業員の皆さんにとって嫌がるものです。
● 設問:上司は、あなたに挑戦的な目標を設定するように促しているか
→ 嫌がる理由:挑戦的な目標を掲げて未達だった場合、評価が低くなり、賞与に影響するから
● 設問:上司は、あなたに目標を達成するための計画を具体的に立てるように促しているか
→ 嫌がる理由:面倒くさいから。どうせ計画通りになんていかないと思っているから
● 設問:上司は、あなたと定期的に業務の振り返りを行う機会を設けているか
→ 嫌がる理由:面倒くさいから。上司と話す時間が苦痛だから
● 設問:上司は、キャリアに関する話し合いの場を設けてくれているか
→ 嫌がる理由:面倒くさいから。キャリア目標を考える意味を感じないから
管理職の皆さんの「積極性」や「挑戦性」は、従業員に疎んじられることがあります。管理職の皆さんの「丁寧さ」や「きめ細やかな」は、従業員に煙たがられることがあります。
でも上記項目はいずれも、組織の成長・発展にとって必要なことなはずです。ですので、周囲からの評価が(相対的に)低くない結果であったとしても、もっと力を入れて取り組んだ方がいいことなのです。
更に言えば、360度サーベイの結果を管理職の皆さんへフィードバックしていると、
部下にとって耳障りの良いことばかりを言い、部下の言うことを100%受容し、部下のやりたいことだけやらせるような、ゆる~い管理職をつくろうとしているのではないか
と、管理職の皆さんに勘違いされることがあります。過去には文句を言われることだってありました!
360度サーベイの結果をフィードバックする際には、管理職の皆さんに「そうではない」と断ったうえで、サーベイの正しい目的を伝え、今後必要なマネジメント行動について考えてもらわないと、的外れな行動計画を立てたり、部下を迎合するマネジメントを助長することになり、管理職の皆さんはますます負担を感じることになります。
会社として、管理職の皆さんを応援する/味方するスタンスをもっと見せないと、結果として会社がダメになる気がしてなりません。
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今日はサーベイを利用する際に注意したい視点に関するお話でした。
管理職の皆さんが「ビジョンやミッションといった概念を正しく理解していない」という話をしましたが、だから「管理職が悪い」とは思っていません。反対に、なんでもかんでも管理職に責任を押し付けようとする風潮に対して強い危機感が私にはあります。
経営や人事の立場からすれば「そんなつもりはない」と言うかもしれませんが、一般従業員を甘やかしすぎてはいませんか。甘やかしすぎて、管理職がメンタル不全になったり、管理職への成り手がいなくなったりすれば、経営が回らなくなり、最悪の場合、会社がつぶれてしまいます。そうなれば、一般従業員だって路頭に迷ってしまいます。
現場の管理職だけでなく、経営企画や人事の人たちも、「厳しいことを言うと従業員が逃げてしまうのではないか」と恐れるのではなく、社会や顧客に自社の持つ価値を届けるために、正しいことを高いレベルでシビアに行うことを推し進めることに自信を持ち、従業員と向きあう必要がありますね。